PASTACAS 「Pohlad」
この商品のレビュー
ヘルシンキの中心街から車で小一時間。見渡す限り木々で覆われ、静寂に包まれた原始の森の中に閑静な一軒家がある。家族4人で過ごすその家の一室で、あの吟遊詩人が8年の月日をかけて待望のオリジナル・アルバムを完成させた。全17曲が収録された文字通りのフル・アルバムだ。
その8年の間にテニスコーツとの共作『ヤキ・ラキ』や、そのリノベーション・アルバム『ヤキ・ラキ〜ヴァージョンズ』を発表。さらに北ヨーロッパを中心にライヴ・パフォーマンスも頻繁に行っていたパスタカス。その一方で、期待されたニュー・アルバムの制作は紆余曲折し、遅々として進まないジレンマの時期が長く続いていた。その遠因はある悲劇だった。
「それは2012年、アルバムがほとんど完成した時に起きたんだ。僕のコンピューターが何の予兆もなく突然クラッシュしてね。慌ててサルベージ業者にも相談したけど無駄だった。バックアップを取ってなかったから、すべてがパーさ。すべてを失って傷心して......もう一度同じ曲をレコーディングしたりミックスする気になれなかった」
それでも家族や友人に支えられ、時には力強く尻を叩かれて実質2年の時間をかけてようやくアルバムは完成した。サウンド的にはこれまでのパスタカスの延長線上にあり、エストニアのカントリー・ミュージックをベースにしたエレクトリック・フォークと言っていいだろう。独特の土臭い旋律と、エイフェックス・ツインやスクエアプッシャーを想起させるレコーディング/ミキシング・ソフトウェアを自在に操ったツンのめるような脱臼ミックス。その絶妙な雰囲気は今回も健在だ。
アルバム・タイトルにも込められたものがある。「Pohlad(ポーラッド)とはエストニア語でリンゴンベリーのことなんだ。こっちでは自然に群生している小さな赤い実をつけるベリー。そしてエストニアのスラングでは"心配ない"って意味もある」。自身の活動を見つめ、家族を想う彼の現在の心境なのだろう。決して多くを語らないところもまた彼らしい。
そして9月には友人でもあるテニスコーツとセカイとジョイントしたジャパン・ツアー"パスタとテニスのセカイ"が企画されている(詳細は当Web参照)。パスタカス曰く「チャレンジ」でもあるこのツアーでは、またとっておきのものがクリエイトされるに違いない。こうして、パスタカスの終わらない吟遊の旅は続く。
【Track List】
1.Erikool
2.Kuulamind Varsti
3.Niidud
4.Klal
5.Pohlad
6.Monotomnik
7.Siiri Paari
8.Kidra Flasokate Lugu
9.Äiti ütles et
10.Sinu Papu
11.Say You Way Me
12.Tuul Tõustes
13.Pilv Mürab
14.Tünaldi Dora
15.Sinu Sõbrad
16.Eelmisel
17.Su Viipalett
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