Sunna Gunnlaugs 「Long Pair Bond」
この商品のレビュー
スンナ・グンロイグスと出逢ったのは2003年で、実は彼女のグループを日本に招待し、青山のスパイラル・ホールで演奏してもらったことがある。
アイスランドのジャズ界に何組かのピアノ・トリオやピアノ中心のジャズ・グループは存在するけれど、彼女の叙情的でちょっとメランコリックなメロディが、私には最もアイスランド的に聞こえて魅力的だった。
あれから随分と年月が経ち、時々アルバムを出していたのは知っていたけれど、彼女がずっとニューヨーク・ベースであり、私がポピュラー音楽に忙しくしていたこともあり、正直なところずっとご無沙汰してしまっていた。
そんなスンナと再会(?)したのは2011年秋で、Facebook上で彼女があるプロジェクトを行っていることを知った。それはニュー・アルバムを自費でプレスすることであり、プレス費用を出すため、Kickstarterというサイトのシステムを使用してファンにカンパを呼びかけていたのだ。
カンパといっても単なる寄付ではなく、そのプロジェクトが目標金額にリーチせず、実現されなければ何も支払うことはないし、実現すれば、出した金額の条件に見合った何かがもたらされる。私の場合は、プレスしたアルバムを一枚いただいた。
それはもう、知り合いとしてスンナの活動をサポートしようということであり、このショップでは正直なところジャズはあまり売れないため、ショップ用に仕入れることは全く念頭になかった。
そして届いた久々のスンナのアルバム『Long Pair Bond』は・・・「うわぁ、素晴らしい!」の一言だった。
私が覚えているスンナの演奏よりも、格段に雰囲気があり、料理でいえば滋味のような味わい深さと暖かさが出ていて、ふんわりと包み込むような演奏になっていた。
そして、バックのベースやドラムスも、それぞれに個性あるラインを刻みながら、トリオとしての存在感を保ち、とにかく全員のバランス感がとてもいい。
特に最初の「Long Pair Bond」は、ピアノの音が次にどこへいくの?というワクワク感のあるメロディだし、ピアノの音が五月雨のように降り注ぐ「Autumnalia」は、ベースとの掛け合いが素敵だし、やさしく美しくというより少々男性的な響きの「Crab Canon」は 即興をやりだしたら楽しそうな雰囲気で、いかにもジャズらしい遊び心がある。
「 Fyrir Brynhildi」はスンナお得意の叙情的なメロディが、まずはベースで奏でられ、次にピアノが美しくエキゾチックなラインを紡いでいく。「 Safe From the World」は子守歌のような安らぎのある曲で、聴いていると別世界にもっていかれそうな気がする。
アップデンポ気味の「 Diamonds on the Inside」はベン・ハーパー5作目のアルバム・タイトル曲で、これをスンナがピアノ・トリオ曲として楽しくきれいにまとめあげている。
「 Not What But How」は東洋思想に基づいた考えからのタイトルということ。スンナの素敵な旦那様でありドラムスのスコットの作品。最後の「Vicious World」は和音の使い方が魅力的で、オリジナルはルーファス・ウェインライト。私はこの手のシンガー・ソングライターに目がなく、ルーファスのヴァージョンも胸キュンですが、そのイメージを壊すことなく、ピアノの美しい響きを生かしたピアノ・トリオならではのヴァージョンにもため息です。
このアルバム、全般のトーンの流が素晴らしく美しく、それでいて個々の楽曲のバラエティ感もあり、聞き込むほどに新たな発見に満ちていて、本当に大好きです。聞き流しても邪魔にならず、聞き込んでも楽しいし・・・。
というわけで、最初はお友達の付き合い程度に考えていましたが、あまりにも素敵なので、ショップでも扱うことにしたのです。みなさまも、ぜひこのアルバムをお楽しみくださいね!(小倉悠加)
「ICELANDiaショップから商品説明を転記」
◇収録曲目
1. Long Pair Bond
2. Thema
3. Autumnalia
4. Elsabella
5. Crab Canon
6. Fyrir Brynhildi
7. Safe From the World
8. Diamonds on the Inside
9. Not What But How
10. Vicious World
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