Tenderlonious 「The Shakedown featuring the 22archestra」
この商品のレビュー
糖質オフの無糖グルーヴが迫る、音楽への忠誠と訴求。フルートの音に誘われ、”愛”や”祈り”といった類いが、徐々に真実味を帯びていく魅惑の集団催眠 —それはまるで、2018年にメジャーアップデートされた “Bitches Brew”。
ブラジリアン・フュージョンやアフロ/ラテンを醸す独自の調べは、数多のパーカッションを重ねているのに、式に直せば引き算になる。騙されている?いや、踊っている…。
サウスロンドンの謎多きクルー “22a Music” の正体がいま明かされる。
設定温度40℃の地下室内で平然とホットのダージリンティーを啜る様にして、首謀者 Tenderlonious は、ジャズファンクとアフロビートのその先を見据えている。
目紛しく呼応し合うドラム / パーカッション / ベースの嵐と、だまし絵の様なパースペクティヴを示す美しい鍵盤のコードの狭間を、フルートとシンセサイザーで往来する彼独自のスタイル。まるで 74年のHerbie Hancock にカポエイラで勝負を挑む 00年の Slum Village の様なこの勇敢なヴァイブスは、寄せては返すサブスク時代の荒波をものともせず、華美な装飾は徹底的に排除し、鬼の様にストイックに、渋く、辛抱強くグルーヴし続ける無骨なジャズメンシップと、音楽への愛情、そして何より信頼に溢れている。
22a Music は Tenderlonious 率いるサウスロンドンの音楽仲間の集い。DJやジャズリスナーを中心にカルト的人気を博す Ruby Rushton や、惜しくも袂を分かつことになった Yussef Kamaal のHenry Wu と Yussef Dayes 、Gilles Peterson からの寵愛を受ける Reginald Omas Mamode IV、そしてその兄弟 Mo Kolours に Jeen Bassa、Al Dobson Jr. や Dennis Ayler 、James ‘Creole’ Thomas ら様々なシーンの最先端を突き進むプロデューサー、エンジニア、演奏家たちによって構成されるいわばファミリーの様な集団だ。いま一際盛り上がりを見せるUKジャズシーンが成熟する以前から、マイペースに活動を続けていた彼らは、そもそもDJカルチャーの中で頭角を現してきたが、他のUKのジャズメンの様に、オーセンティックな演奏家としての魅力はまだまだ周知されていない。
今作 “The Shakedown” では、まさに時代が彼らのヴィジョンと魅力にフィットした形で、最良のタイミングでリリースされることになった。今作はこれまでのクルーの活動の総決算でもあり、同時に Tenderlonious 名義でのデビューアルバムでもある。
レコーディングには the 22archestra という名義でクルーのメンバーを含む6人の演奏家に Tenderlonious が加わり、彼自身によるプロデュースで制作が行われた。録音はアビーロードスタジオ。Ezra Collective、James Blake、Frank Ocean の最新作での仕事で知られる Matt Mysko がエンジニアを担当している。
この名盤の登場により、MF Doom や Madlib はしばらくレコ屋を巡る必要もなくなるだろうし、ジャズ、ソウル、ファンク、ヒップホップ、アフロビートを志す音楽ファンたちも、この作品と向き合うための時間を用意せざるを得ないだろう。
これは音楽への従順で素朴な愛、そして祈りだ。
【Track List】
1.Expansions
2.Yussef’s Groove
3.Togo
4.SV Interlude
5.The Shakedown
6.Maria (Extended Version)*
7.You Decide
8.SV Disco
9.Red Sky At Night
10.Jolie*
*日本盤CD限定ボーナストラック
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