Chilly Gonzales 「Gonzo」
この商品のレビュー
3作の『Solo Piano』シリーズ、室内楽、ボーイズ・ノイズ、ジャーヴィス・コッカー、プラスティックマンとのコラボレーション・アルバム、さらにはクリスマス・アルバムまで、12年間に渡ってインストゥルメンタル・アルバムを発表してきたチリー・ゴンザレスは、胸に多くの思いを溜め込んできた。
2011年のオーケストラ・ラップ作品『The Unspeakable Chilly Gonzales』以来、開放されることなく眠らせていた彼の言葉は、2022年初頭、長かった10年間の精神分析に終止符を打ち、再び熱を帯び始めた。言葉遊びや名前の引用 (ロン・ジェレミー、近藤麻理恵、チンギス・ハーン、フィリップ・グラスなど) の背後にあるのは、説得と告白、妄想と自己認識、そして感謝の間に存在する継続的な緊張感だ。
創造性と商業性の間の緊張は、チリー・ゴンザレスにとってキャリアを通じた探求であり続けている。しかし、これは本当にラップ・アルバムなのだろうか?ストラヴィンスキー風の「Fidelio」や涙を誘う「Eau de Cologne」などのインストゥルメンタル曲は、彼の言葉が耳に馴染むと同時に、天才音楽家というチリー・ゴンザレスのペルソナをリスナーに想起させるだろう。 アーティストと芸術を切り離すことはできるのだろうか?
16歳のとき、チリー・ゴンザレスは父親に引きずられてドイツのバイロイトでワーグナーのオペラを観た。若きティーンエイジャーはその音楽に圧倒されたが、その作曲家が怪物的な人間であることは理解していた。この難問から生まれたのが「F*ck Wagner」(M8)であり、これはカニエ・ウェスト、キャンセル・カルチャー、そしてすべてのアーティストの悲劇的な人間性を歌った曲と言えるかもしれない。この分離は、ワーグナー (あるいはカニエ) の音楽を称賛する一方で、「ファック・ワーグナー」と言葉にする自由を我々に要求する。
そんなわけで、チリー・ゴンザレスは生まれ故郷のケルンで、リヒャルト・ワーグナー通りからワーグナーの名前を削除し、(2012年にチリー・ゴンザレス自身が行ったように) 外国人としてケルンを故郷とすることを選んだティナ・ターナーの名前に置き換えるキャンペーンの先頭に立っている。
「Open the Kimono」(M5) という言葉は、"透明性"を意味するテック業界の表現だが、ここではアーティストの仕事を表現するために再利用されている。チリー・ゴンザレスが言うように真のアーティストは自分を表現するしかないのだ。デトロイトのOG、ブルーザー・ウルフ (ダニー・ブラウンのブルーザー・ブリゲイドと契約) は、このアルバムで唯一のフィーチャリング・ヴォーカリストである。
Spotifyのプレイリスト文化に合わせて音楽を作るアーティストを罵倒する韻文形式の「Neoclassical Massacre」で、アルバムは沸点に達する。2004年、名作『Solo Piano』で意図せず「ネオクラシック」のスタイルを作り出してしまった男からの複雑な感情が歌われている。簡単な答えはないが、真実は痛みをともなう。
【Track List】
01. Gonzo
02. Surfing The Crowd
03. High as a Kite
04. Fidelio
05. Open the Kimono (feat. Bruiser Wolf)
06. Neoclassical Massacre
07. Cadenza
08. F*ck Wagner
09. I.C.E.
10. Eau de Cologne
11. Poem
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